地獄は​われらの​中に​: Hell is Us 感想

2026-01-26
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Steam冬セールで駆け込み的に購入した Hell is Us (2025, Rogue Factor, Nacon)1 は、個人的に2025年リリース作品のトップ3に入る体験だった。この地味で人を選ぶ、歴史的・民族的経緯による内戦の暴力性を真摯に描いた探索パズルアドベンチャー作品の感想をここに残す2

思いのほか長くなってしまったので先に評価の要旨をまとめてみる。

民間人から見た繰り返される内戦、超常的な敵や宗教、陰謀サスペンスという異なるリアリティのものを重層的にまとめあげた物語世界のつくり。その世界の謎を解くための情報収集ベースのパズルという課題解決、情報収集のための探索、探索に足るレベルデザインや美術面。これらは本当に素晴らしかった。主要な賞では受賞はおろかノミネートさえしていないように見えるのは不憫なぐらいだ3

一方で、戦闘システムには工夫と混乱が同居しているように見える。悪くはないが個人的にはパズルと探索だけでもよかったかもしれない。また、プレイヤーの介入と帰結は想像していたよりは弱かった。

それでも、自発的な探索を主体とした体験の素晴らしさ、そして内戦というテーマを悪趣味に走らず真摯に描いた点で、とても意義のある作品だと思った。

物語: 知られざる国、ハデアへようこそ

本作でプレイヤーは、外世界からの来訪者として、世界から孤立した国家ハデアの現在の内戦とその背景にある歴史を知ることになる。サビ人とパロム人という宗派分裂に起因する民族間の対立、ハデアの宗教の歴史、白い人型の怪物「ホロウ・ウォーカー」とそれを生み出す「タイムループ現象」のような超常的な厄災、そして陰謀を絡めたストーリーテリングが展開される。

1993年、国境を閉ざし外部からは謎に包まれた国家「ハデア」は内戦状態にあった。人々が宗派の分裂で「民族」に分かれ、憎しみの種を撒かれ、否応なく翻弄される。主人公レミは幼いころ母によりハデアから脱出させられたが、自身の出自を知るために、平和維持軍の一員に扮して再びハデアに戻る。母に渡された異形のモチーフのネックレスと、父の名前だけを頼りに。国境近くの農村で得た手がかりをもとに訪れた遺跡では、交戦勢力ではない謎の組織OMSIFの兵士の遺体と顔のない人型の怪物に遭遇する。

世界設定の緻密さはハデア内の細かな地名や前線の状況にも現れている。
世界設定の緻密さはハデア内の細かな地名や前線の状況にも現れている。

物語が進むにつれて、個人的な出自の謎を追う物語が、ハデアの歴史と現在をつなぐ謎へ、やがて巨大な陰謀へと接続していく。両親の秘密、何度目かわからない民族内戦の真の原因、そして「厄災」と「タイムループ現象」をめぐる組織の思惑。これらが複雑に絡み合いながら明らかになっていく。

この構成は、探索による世界理解をベースとしたパズル解決というゲームメカニクスと高い親和性を持つと思う。

物語と対になる魅力: 自発的探索、レベルデザイン、美術

序盤での舞台設定が整ったあとは、ハデアの各地を行き来し、情報と必要なアイテムを集めてパズルを解くことで物語が進んでいく。

プレイヤーへの指示はゲーム内での主人公の動機(家族に何があったか知る)のように大きい粒度のもので、各エリアマップにおける探索時にはマップやタスクレベルのクエストマーカーはない。このデザインを開発者は「プレイヤー・プラタリング」(手取り足取りの真逆)と称している4

ゲーム開始時に表示される仰々しい警告
ゲーム開始時に表示される仰々しい警告

行き先のヒントは方角程度の曖昧な情報のみ。手動で数秒間だけ表示されるコンパスと、繰り返し探索して培う土地勘が頼りになる。

よく議論になる「黄色いペイント」はない。とはいえ全くすべてのインタラクションがヒントなしかといえばそうではなく、取得可能なアイテムは小さくまばゆい光で表されて遠くから見えるし、インタラクション可能なオブジェクトには控えめなハイライトのオーバーレイが表示される。視覚的にはリアル寄りのレベルデザインではあるが、POIが自然に目に入るように工夫されていると感じる。この記事に貼ったゲーム内画像からわかるとおり、現代とは離れた異様な建築の意匠やサイズ感でもそうしたPOIは目立つようになっている。

それぞれのエリアは隅から隅までダッシュ状態で1分ぐらいのスケールの街区や、高さ方向に巨大な古代建築や、ひとつの建物のように様々だが、概して箱庭的でゲーム内での歩き疲れは感じなかった。とはいえ、立体的な構造が多く、パズル攻略とともにひらく裏道・抜け道があるため、方向感覚と状態管理でワーキングメモリの負荷はやはり高かった。

コンパスは一応あるが手動起動だし補助アイテムの一つって位置づけ
コンパスは一応あるが手動起動だし補助アイテムの一つって位置づけ

美術面は、地味でリアルな旧共産圏風の街並みと、異形の古代建築とのコントラストが素晴らしい。そしてそこに重なる残酷な内戦の様子。積み上がった民間人や軍人の遺体、焼けこげた親子、吊るされた家族、軍人の蛮行に晒された民家の様子のレイヤーが重なる。

木々の隙間からあんな塔が見えたらそっちに行きたくなっちゃうでしょ
木々の隙間からあんな塔が見えたらそっちに行きたくなっちゃうでしょ
陰影の表現が印象に残る
陰影の表現が印象に残る

内戦で傷んだ街や人々。遺体の表現を含むため隠した。クリックで表示される。

得られた情報はデータパッドに蓄積される。このUIはリッチさと機能性を両立した優れた例だと思う。
得られた情報はデータパッドに蓄積される。このUIはリッチさと機能性を両立した優れた例だと思う。

こうした「プレイヤーに発見させる」探索が機能するかどうかは、提示される物語世界そのものへの興味と相性に大きく依存する。マーカーがない世界で「次はどこへ行けばいいのか」を自分で設定し続けるには、その世界の地理や歴史、そこで起きている出来事に対する好奇心が不可欠だ。 Hell is Usの場合、ハデアという架空国家の2000年に及ぶ孤立の歴史が現れる各時代の遺物・遺構、現代の民族内戦、そして「厄災」の謎が、探索のモチベーションとして機能している。

廃墟を歩きまわり何度も同じところを迷いながらデータパッドの手がかりを読み返す。ワーキングメモリに載ったメモのヒントを思い出してハデアについての知識がつながり道がひらける……そうした過程そのもので好奇心が充足される感覚があった。

日本語ローカライズの質が高いこともその後押しをしている。もしテキストの質が低く真偽すら信用できないものであれば、この情報収集ベースのパズルの体験が揺らいでしまうからだ。

ただし、これらの美点は先に挙げたとおり物語世界にどれだけ興味を惹かれたかに依存してしまう弱点がある。そして、そこを超えたとしてもこれらの美点を邪魔しかねない一部の問題について以下で触れる。

われらがオトモドローン"KAPI"。パズルに必須の古代語まで翻訳してくれるすごいやつ。なぜかその翻訳結果はデータパッドに登録されないけど。
われらがオトモドローン"KAPI"。パズルに必須の古代語まで翻訳してくれるすごいやつ。なぜかその翻訳結果はデータパッドに登録されないけど。

これは蛇足か誘い水か: 工夫と不足を同時に感じる戦闘メカニクス

本作のPVや紹介記事を見て「またソウルライクか?」と思う人はいるだろう。開発者がハードコアなソウルライクではなく”Mid-core”を狙ったという5戦闘メカニクスは、工夫は感じたけれどこの作品の中心にはないと感じた。

スタミナとHPが連動するリアリティ重視のシステム6、連続攻撃で蓄積した「回復パルス」を適切なタイミングで回収するリスク・リターン設計、武器ごとの特殊スキル、ドローンの活用、与ダメージの遅延回収による攻勢寄りの設計——工夫の跡は随所に見える。プレイヤーのレベリングやスキルツリーはない非RPG的なシステムであるが、ドローンや武器に付けられるスキルは多めに用意されている。一方で敵のバリエーションや行動パターンの少なさ、ボス戦の不在など、同ジャンルの他作品と比較すると明らかに弱い。回復パルスによるHP回収のおかげでかなり簡単になっているし、ソウルシリーズのいわゆる「篝火」のように敵が復活することやデスペナルティ7も基本的に存在しない。

細かい手触りの点かもしれないが、プレイヤーのアクションに対するゲーム内世界の反応が乏しくオブジェクトもほとんど静的で無反応という点も、戦闘のインタラクティブ性を損なっている。

人はなぜローリングでオブジェクトを壊して回りたい衝動に駆られるのか、そして美麗なグラフィックを見て勝手にインタラクティブ性にも期待してしまうのか。 — 序盤で転がり回ったり蛮行をする兵士を切りつけたりして反応を確かめたプレイヤーの思い

戦闘システムがそもそも必要だったのかという疑問はどうしても湧いてしまう。戦闘が果たす物語上の役割が少し弱いと感じた。それはプレイヤーが介入できる相手、つまり戦える相手が、物語世界の内戦に関わる人間たちではなく、あくまでその状況にあらわれたさらなる厄災という超常的な敵であることだ。

次項で述べるとおり対人間でのモラル判断が不在であることと合わさると、何度もこの厄災の敵と戦うことの意味を考えてしまう。物語上主人公に与えられた使命である、というだけになっていないか、と。

個人的には、もし本作に戦闘パートがなくても探索・パズルアドベンチャーの部分で十分楽しめたような気がする。たぶんだけど、物語や探索だけだと狭い層にしかアピールできないからと苦心した結果なんだろうか。

怖さより不気味さを感じさせるデザインとモーションの敵たち。惜しむらくはそのバリエーションの少なさ。たぶん5種類ぐらいしかいない。
怖さより不気味さを感じさせるデザインとモーションの敵たち。惜しむらくはそのバリエーションの少なさ。たぶん5種類ぐらいしかいない。

魅力に陰を落とすもの: 物語終盤とプレイヤーの介入の物足りなさ

本作のカットシーンは冒頭から一貫して、何らかの失敗があったのか、主人公が異様な風貌のスーツ姿の大男に尋問されているという形式で進む。自分がこれから何をやってもある時点でその状況に行きつくとしたら、一体何が道中で起こるのかと感じさせる……この構成自体は面白いと思ったし、プレイ中に死んでしまったときに「君はそんなところで死んでいない」と供述内容としてメタ的に否定されるのはよい表現だった。

そして主人公だけにとどまらないハデアの過去から現在への内戦の連鎖に関わる様々な事実が明らかになる過程は、カットシーンが主ではなくプレイヤーの情報収集と探索が主であるため地味ではあるが腑に落ちるものだった。

開始数十秒で見た姿。あの白い怪物たちと何か関係が?と思わせてくれる。
開始数十秒で見た姿。あの白い怪物たちと何か関係が?と思わせてくれる。

それゆえ、大小さまざまな謎が明らかになったあとの物語終盤の畳み方はかなりアンチクライマックスだと感じた。悪くはないし、どこかでこういう終わりになるとは思っていたところがあるのだけど。以下は結末に触れる箇所のため隠した。クリックで表示される。

内戦自体の終結は結局わからない。超常の厄災の拡大や軍事利用を防ぐ行動はしたが、その過程で明らかになった巨大な陰謀、兵士のみならず民間人も加担した蛮行、非道な人体実験といった悪に対して、プレイヤーができることは限定的な人助けと、影での超常厄災の解決に過ぎない。

個人的には先に挙げた主人公周辺の物語は舞台装置だと思っており、プレイヤーのその時点ごとの作中世界への認識の変化のほうが主観的な体験としては重要だと感じている。この物語終盤の瑕疵それ自体は大きくはない。

しかしプレイヤーの介入対象がかなり限定されている設計になっているのはもったいないと思った。世界認識や倫理的な判断が各地での内戦の状況やハデアの歴史を知ることで変わっていく……この感覚がなかなかよかったがため、余計にそれが目立つ。

道中で目撃する悪辣な所業に対して、プレイヤーは基本的に介入できない。たとえば以下のような状況だ。

  • 過去の経緯で正当化し、無抵抗の民間人への暴行や略奪を繰り返す兵士を率いる指揮官
  • ある街では民主的な独立投票を問う選挙に参加させないため人々の手を切り落とす蛮行が行われた。その街に更なる苦痛を与えるために街の女性を拉致して虐待する兵士たちとそれを肯定する司祭
  • 内戦を好機ととらえ、洗脳や被験者同士の殺し合いのような非道な人体実験を主導する科学者

こうした暴力を行使する者たちや、それを利用する者たちへの介入はほとんどできない。直接NPCに危害を加えられないし、サイドクエスト群はあるものの、それらが「善行」と表現されるだけあって内戦に翻弄される人々を助けるものとなっている。必要なアイテムを見つけられなかった、時間がかかりすぎたなどで人々を救うことができず、結果的に死亡するなどの暗い結末はある。しかし悪人を罰したり、暴力を止めたりすることはできない。このデザインは観察者としての役割を示唆しているとも解釈できる。開発者は主人公が内戦に関与せず、内戦を解決しない設計を意図的に選んだらしい8

クエストはストーリー進度によっては間に合わないことがある。救えなかった赤子。アイテム欄に赤子のために渡された哺乳瓶が残り続けてじわじわと責められる気持ちに。
クエストはストーリー進度によっては間に合わないことがある。救えなかった赤子。アイテム欄に赤子のために渡された哺乳瓶が残り続けてじわじわと責められる気持ちに。

倫理的な判断を善悪のポイント制にして特定のイベントにより増減させることは、ゲームっぽさを高めてしまい良し悪しがあるかもしれない。それがルート分岐や武器・ステータス強化などの実利に絡む場合を想像すると、善悪の判断の正解がどちらかに偏るような気がしてくる。一方でMetroシリーズのように本作と似た善行ベースで採点される事例がある。特にMetro Exodusでは本作と同様に能動的な探索というシステムをとりながら、NPCへの介入に対して物語に関わる帰結をもたらす倫理スコアリングを行った好例だと思う。

もっとも、こうした仕組み自体のもつ難しさはあり、プレイヤーの選択は制作者の設定した倫理規範でスコアリングされることがほとんどなので、認識にギャップが生じるかもしれない。また、選択と結果の粒度によっては、ちょっとしたお使いで妙に信頼を得たり相手を簡単に説得できたりするように、リアリティが棄損されてしまうかもしれない。

プレイヤーキャラクターがあらゆる判断を引き受けるようになると、それはままならない状況に支配力をもってしまうので本作のテーマとは合わないはずだ。とはいえ、せめて主要な登場人物の生死にはプレイヤーの選択が因果関係をもつようにあってほしかったと思う。

前項で触れた戦闘メカニクスとの関係性についても考えてみる。プレイヤーが戦える相手は物語上の内戦に関わる人間たちではなく、あくまでその状況にあらわれたさらなる厄災である超常的な敵だ。それらはある意味でコズミックホラーにおける超越者のようなもので、構造的・倫理的な悪を見出す対象にはなりえない。

もしそうした存在に加えて物語上の対立や憎悪を体現した敵と戦う機会があれば、プレイヤーは物語世界への関与を実感できたかもしれない。しかし、人間への暴力を排除したことで、戦闘は物語から切り離され、単なるゲームメカニクスとして宙に浮いてしまっているように見える。

物語上のプレイヤーの位置づけによるままならなさと物語への影響力とのバランスが難しい。

総評: ゲームで内戦を真摯に扱ったことの意義を感じる佳作探索アドベンチャー作品

抑制的で派手さはなく、ヒロイックな兵士の物語もカタルシスも微塵もなく、現実と地続きの陰惨なトーンで描写された内戦とその背景にある複雑で闇の深い歴史と陰謀を知るだけである。あなたはそれを直接解決できない。その結末を見ることはかなわない。快楽が得られるとしたらそれは知識欲の充足で、戦闘はおまけかもしれない。

分析的に要素を挙げていくとどこか不満げにみえるかもしれないが、そうした言語表現とは裏腹にこのゲームの体験は個人的に素晴らしいものだった。探索やビジュアルがハマったという理由はもちろんあるが、何より開発元が内戦というテーマを描くにあたって真摯なアプローチをしていることが伝わってくる作りだったからだ。

選挙で投票させないための身体的な暴力……。実際の内戦や紛争で同様のことがあったんだろうなと思わせるリアリティが辛い。
選挙で投票させないための身体的な暴力……。実際の内戦や紛争で同様のことがあったんだろうなと思わせるリアリティが辛い。

2025年は建前上の秩序や経済的な互恵関係に基づくバランスといった世界の安定を支える構造が、そうした建前の合理性すら考えられない横暴で反知性的な人間によって壊されることがわかった年だった。そして、名の知られた人間たちの強大な横暴さとは対照的に、SNS上で増幅される憎悪のような統計的で責任の所在がぼやけた集合的暴力が、そうした破壊の原因なのか触媒なのかわからぬまま堰を切ったように表出している。

こんな現実の情勢がある中、どこまで遡っても加害・被害の歴史があり世代を超えて憎しみ合う人々、抵抗を超えて相手を蹂躙するようになってしまった人々、それでも民主的に対抗しようと一縷の望みを尽くす人々、そして内戦自体を道具として利用する人々、こうした様々な暴力を悪趣味さに頼らず抑制的に、しかし隠さずに描ききったHell is Usの存在は貴重なものだと思った。

地味だし戦闘まわりは問題がある。それでもなお、架空国家という設定を採りながらも明らかに複数の史実を想起させる内戦を正面から描写したゲームを2025年にリリースしたことについて、開発スタジオには賞賛を送りたい。

Hell is Us (Steam)


余談: 戦争を扱ったゲームとそのトーンについて

Hell is Usの感想文を書く準備として、このテーマを扱う上で避けて通れないと思ったのは”Spec Ops: The Line”だった。戦争や組織的な暴力の描き方において、Hell is Usとはプレイヤーが体験する立場や視点が対照的な作品に思えたからだ。Spec Ops: The Lineはプレイヤー自身が兵士として暴力に加担し、その選択の重さと罪悪感を突きつける作品であるのに対し、Hell is Usは民間人視点で観察者として内戦を体験するように見える。もう10年以上前の作品だ。今からでも体験できればと思って各社ストアを見てみたら、ダウンロード版は作中使用楽曲のライセンス切れ等の理由で実質的に絶版状態となっていた。悲しすぎる。

戦争を扱ったゲームはたくさんプレイしたけど、その暴力性を真面目に描いたものはやはり限られていると思った。

映像作品の鑑賞者やゲームのプレイヤーは、戦争を描いた作品に対して(戦争自体が実質そのように扱われているように)非日常の道徳規範で作中の描写の質を判断するのかもしれないという仮説をもっている。たとえばかつてのCall of Dutyシリーズはその名の通り一兵卒が戦場で負う部隊や国家への義務や忠誠を、主にヒロイックにしかしある種の歴史を振り返っての反省の素振りを伴って描いていたように思う。表面上だけでもそうしたトーンが現れていたからこそ、マルチプレイのお祭り戦争ごっこに対する道徳的な抵抗は解消され、楽しめたような記憶がある。

その点ではCoDよりもBattlefield 3や1に表現のうまさを感じたかもしれない。兵士の倫理的判断は個人や部隊レベル、大義や名目との対比がされていたし、そこではある種の裏切りすら行なわれるからだ。いくら正戦論や交戦法規のような非日常の倫理システムを運用しようとしても、人間個人のもつ倫理とは完全には切り離せないということでもありそうだ。

しかし、だんだんとそうした機微は失われている気がする。特に根拠があるわけではなく、プレイしたゲームに感じた感想だけど。

悪い意味で印象的だったのはリブート版のCoD MWのキャンペーン。ドラマ作品のような表層的な重々しさだけが強調されて、しかもエンディングの後にはWarzoneという軽薄なノリのモードの予告が用意されている。プライス大尉は以前のような人間的・軍人的な判断の両方をヒロイックに下す存在ではなくなり、リアリズム気取りの説教をしてくる顔芸おじさんになってしまった。

真面目さと対になる吹っ切れた表現についても最近はあまり見られない気がする。果たして今のUSの情勢でWolfensteinの新作は作れるのか。どうしてこうなってしまったのか。

……という見方をしていたので、Hell is Usが世に出たことへの喜びは大きかった。その大きさといったら、こんな長い感想文を書いたり、画像やスポイラー箇所の表現のためにこのサイトのコードをかなり拡張したぐらいだ。

Footnotes

  1. Deus ExシリーズのアートディレクターだったJonathan Jacques-Belletêteが、カナダの中規模スタジオRogue Factorで手がけた初のオリジナルIPらしい。Nacon Announces New IP Hell Is Us From Rogue Factor, Led By Former Deus Ex Art Director - Game Informer — “Publisher Nacon has announced Rogue Factor’s newest title in the works is called Hell is Us, with former Eidos Montreal Art Director Jonathan Jacques-Belletête on the project as creative director.”

  2. 難易度ノーマル、サイドクエストは失敗込みだが全て遂行、ゲーム内時間28時間程度

  3. Steamを見る限りプレイヤーからの評価は高い。しかし話題性や売上はどうなんだろう。パズルに関しては “Blue Prince” のような尖った作品があった(未プレイ)。ストーリーテリングと演出の派手さでは “Clair Obscur: Expedition 33”, アドベンチャーでいえば “Chronos: the New Down”(未プレイ)があった2025年。個人的に賞レースは評価のキャリブレーションという意味しか感じないが、逆説的にはノミネートや受賞によりその作品に触れる人が増える機会を逃しているともいえるので惜しい。

  4. New Hell Is Us Deep Dive Shows How The Game Refuses To Hold Your Hand - GameSpot — “Our player-plattering approach encourages you to follow your own instincts, discover clues organically, and chart your own course through the adventure.”

  5. Hell is Us Interview With Creative Director Jonathan Jacques Belletête - “Vegvari: Hell is Us threads an interesting needle where it’s not quite a soulslike but draws a ton of inspiration from the genre. How did the team strike that elusive balance? Jacques Belletête: There are two things. We wanted to make it midcore. Hell is Us has a bite to it. We have a lot of difficulty settings. So you can really calibrate it the way you want. The base gameplay has bite, but it’s fairly manageable. So, we knew from the beginning that even if you make something more mid-core nowadays, it’s still hard to ignore some of the verbs and languages that From Software has invented over the past 10 years.”

  6. Hell is Us Interview With Creative Director Jonathan Jacques Belletête - “We always approach it with the idea that we still need to add our own twist, right? We attach the stamina to the health. Just like in real life, if you think about it. In real life, your health is almost all stamina. We have one health point in real life. It’s about not losing it. I boxed for 12 years. When your tank is empty, the next hit is when you’re done. When your lungs have given up, you are finished, you know? That’s a bit of what we try to do, which is also why we have the limbic pulse to counteract this fact. When you have no more health, you can also attack less because your stamina is very low at that point as well. ”

  7. デスペナルティありのオプションも存在する

  8. Hell is Us Preview - Unguided Into Darkness – Exclusive Details On Rogue Factor’s New Game - Game Informer — “The main character won’t be taking a side in the game’s ongoing civil war, nor will you be solving the crisis. ‘One thing’s for sure, the game is not about saving the country from the civil war,’ Jacques-Belletête says.” 2022年のインタビュー。長い開発期間と当初からぶれないコンセプトがうかがえる。